札幌地方裁判所 昭和41年(行ウ)1号 判決
札幌市中央区北二条東三丁目
原告
日本共産党札幌地区委員会
右代表者委員長
阿部勘吉
札幌市北区北六条西七丁目
原告
日本共産党北海道委員会
右代表者委員長
西館仁
右両名訴訟代理人弁護士
杉之原舜一
札幌市中央区北三条西四丁目
被告
札幌中税務署長
岸太郎
右指定代理人
岩佐善己
同
大沢厳
同
大態正丸
同
高橋一蔵
同
大川一
同
笹谷幸三
同
阿部昭悟
同
国枝博
同
林昌夫
同
前田一男
同
鈴木邦彦
右当事者間の頭書事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一申立
一、原告日本共産党札幌地区委員会(以下地区委員会という。)
被告が原告に対し昭和三八年一二月一七日付でなした入場税賦課決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする、との判決
二、原告日本共産党北海道委員会(以下道委員会という。)
被告が、同原告に対し昭和三九年一二月二五日付でなした入場税賦課および同加算税賦課決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする、との判決
三、被告
1 本案前の申立
本件訴をいずれも却下する。訴訟費用は原告らの負担とする、との判決
2 本案の申立
主文と同旨の判決
第二主張
一、本案前の主張
1 被告
およそ訴を提起する場合にはその当事者を明確にしなければならないものである。
ところで、本訴の経過をみると、原告らは本訴を提記した当初において原告らが人格なき社団であつて訴訟上当事者能力があると自陳し、次には原告らは人格なき社団の機関であると主張するに至り、更には第一次的には右の機関として、第二次的には人格なき社団として当事者となるべき旨主張している。
原告らの右の主張が、単なる人格なき社団の機関として訴を提起したというのであれば、このような機関は当事者能力を認める余地がないから本訴は却下されるべきである。
また、第一次的には機関として、第二次的には人格なき社団として本訴を提起し訴訟を追行するというのであれば当事者を確定し得ないものというべきであるから不適法として却下されるべきである。
2 原告ら
原告らが日本共産党の下級組織である同党「北海道地方組織」または「札幌地区組織」の執行、指導機関にすぎず人格なき社団にも当らないことは後に本案の主張について詳細に主張するとおりである。
従つて、右の点からすれば当事者能力を否定されることになるが、現に原告ら委員会に対し、被告において課税処分をなし、これが存在する以上これを排除するため原告ら委員会に対し訴訟上救済の途が開かれていなければならない。
もつとも、原告らの当事者能力がないとしても訴が却下されたとしても、右課税処分に対する救済方法となるならば原告らとしてはその目的を遂げることとなる。
また、原告らが二次的に人格なき社団であると主張しているのは、原告らが人格なき社団と認められた場合を仮定して主張しているにすぎないもので被告のこの点に関する主張は当らない。
二、本案の主張
1 原告らの請求原因および主張
(一) (課税処分の存在)
(1) 原告地区委員会
被告は、同原告に対し、同原告が昭和三八年七月一〇日、一一日の両日札幌市民会館において映画「日本の夜明け」の上映を主催し、二、七三〇名を入場させ、一名について各一五〇円の入場料金(但し入場税法二条三項の用語と異り入場税額に相当する金額を含めて便宜「入場料金」という以下同じ)を領収したとして、昭和三八年一二月一七日付で、四万〇九二〇円の入場税賦課決定をなした。同原告は、右決定について昭和三九年一月一四日被告に対し異議申立をなしたところ、被告は同年四月一〇日右申立を棄却する旨の決定をなした。そこで同原告はさらに同年五月九日右棄却の決定について札幌国税局長に審査請求をなしたが、同局長は同年一一月二二日右請求を棄却する旨の裁決をなした。
(2) 原告道委員会
同原告は、昭和三九年七月二四日札幌市民会館において日本共産党創立四二周年集会を開催し、記念講演を行なつたほか、映画「戦斗的キユーバ」を上映したところ、被告は右集会における映画上映について、同年一二月二五日付で同原告に対し、六、〇五〇円の入場税賦課および無申告加算税賦課の決定をなした。同原告は、右決定について被告に対し法定期間内に異議申立をなしたところ、被告は昭和四〇年四月二二日右申立を棄却する旨の決定をなした。そこで、同原告はさらに同年五月二〇日右棄却の決定について札幌国税局長に審査請求をなしたが、同局長は昭和四一年三月四日右請求を棄却する旨の裁決をなした。
(二) (課税処分の違法)
被告が原告らに対してした本件入場税および無申告加算税の賦課決定は、次のとおり違法であるから取消されるべきものである。
(1) 本件映画「日本の夜明け」の上映を主催したのは、訴外「日本の夜明け」を観る会であると推測され、原告地区委員会ではない。
(2) 原告らは、日本共産党の下級組織である同党の「北海道地方組織」または「札幌地区組織」の機関であるにすぎず、このような機関に対して法人税を課することはできない。
すなわち、原告道委員会は、日本共産党の各都道府県に置かれている下級組織の一である「北海道地方組織」の執行機関であり、原告地区委員会は右「北海道地方組織」の下級組織として札幌市、江別市、千歳市その他周辺郡部在住の党員全部を構成員として組織されている「札幌地区組織」の執行機関である。
以上によつて明らかなとおり、人格なき社団として存在するのは「北海道地方組織」ならびに「札幌地区組織」であつて原告らはその執行機関であるから、人格なき社団の機関が、人格なき社団となることはあり得ないし、その呼称においても右両者は明確に区別されるべきである。
(3) 原告らが人格なき社団であるとしてもつぎのとおり人格なき社団に対しては法人税を課すことができず被告の本件課税はいずれも違法である。
すなわち憲法三〇条、八四条によると、国民は法律に定めるところによつてのみ納税義務を負担し、法律の定める限界を超えてはいかなる場合にも納税義務を負担しないという祖税法律主義を定めているのである。ところで入場税法には所得税法四条、二四四条のように、人格なき社団をも納税義務者とする旨の定めがないので、原告らのような人格なき社団を入場税の納税義務者とすることは右の租税法律主義に反するものである。
入場税法八条一項の別表に掲げている「団体」は法人格を有する団体のみをいうものであるし、被告が主張するように単に法的安定性を害することがないからといつて明文を欠くところをこれに反して解釈により補い運用することは許されないというべきである。
(4) 本件各集会における映画の上映は、入場税法二条一項に定める「催物」にあたらない。
すなわち、本件各集会は主催者の政治活動として行なわれたもので、参集者もまた右政治活動に参加するため来場したものであり、上映された映画もすべて政治的目的と意義をもつて作成されたものである。このような趣旨の映画の上映は、入場税賦課の対象とされている一般の娯楽的、消費的映画の上映とはまつたく異なるもので、これに入場税を賦課することは、入場税法本来の目的からも逸脱し違法である。またそれは国民の政治活動の自由の制限にも通ずるものである。
2 被告の答弁および主張
(一) (答弁)
原告らの請求原因および主張のうち(一)の各事実は認め、同(二)の事実はいずれも争う。
(二) (本件映画上映の主催者)
(1) 原告地区委員会
映画「日本の夜明け」は、主として昭和三八年三月項から同年末項まで日本共産党の下級組織などの主催のもとに全国各地において上映されたが、札幌市においても、同原告はまず大衆の動員目標を立て、ポスター、チラシなどにより映画「日本の夜明け」などの上映宣伝および会場を借り受けるなどの上映準備をすすめたうえ、特別観賞券と名ずけられた入場券(一枚の料金一五〇円)を販売して入場料金を領収し、昭和三八年七月一〇日、一一日の両日、一〇日は夜一回、一一日は昼夜二回にわたり札幌市民会館において、この入場券と引換えに二、七三〇名を入場させて、映画「日本の夜明け」の上映を主催実施したものである。
(2) 原告道委員会
同原告は、日本共産党札幌地区委員会と共同主催のもとに、札幌市において日本共産党創立四二周年記念集会と称して映画「戦斗的キユーバ」の上映を企画し、「日本共産党創立四二周年記念集会、主催日本共産党北海道委員会、同札幌地区委員会」と記載した立看板をかけるなど一般大衆に対し宣伝をはかり、会場を借り受けるなどの上映準備をすすめたうえ、整理券と名づけられた入場券(一枚の料金一〇〇円)を販売して入場料金を領収し、昭和三九年七月二四日札幌市民会館においてこの入場券と引換えに六一一名を入場させて、映画「戦斗的キユーバ」および「アカハタニユース」の上映を主催実施したものである。
(二) (本件入場税の算出根拠)
原告らが前述のとおり映画「日本の夜明け」あるいは「戦斗的キユーバ」および「アカハタニユース」を上映し、これを観覧するため入場したものから入場料金を領収したことが明らかであるので、被告は本件各映画上映について主催関係者に対し、入場税法にもとづく主催申告および納税申告をするよう再三慫慂したのであるが、関係者はこれに応じなかつた。そこで、被告は原告らに対し左の表のとおり国税通則法二五条、六六条一項一号により入場税および無申告加算税の賦課決定を行なつたものである。
〈省略〉
〈省略〉
(四) (原告らの社団性)
被告は、本件各課税処分においてその名宛人を日本共産党北海道委員会あるいは札幌地区委員会なる名称を用いて表示したが、右名称は日本共産党の下級組織の一たる、日本共産規約にいわゆる北海道地方組織あるいは札幌地区組織を指称するものであり、かつ、右各組織はいずれも人格なき社団と認められるから、原告らは、人格なき社団に該当する。その詳細は以下のとおりである。
(1) (日本共産党全国組織)
党規約によると、日本共産党は、中央組織、都道府県組織、地区組織および基礎組織を有し、基礎組織は三人以上の党員によつて構成された細胞と呼称されている。地区組織は基礎組織(細胞)の上部組織であつて、複数の基礎組織を包摂するそれ自体一個の完結した人的結合体であり、当該地区の党員を構成員とし、最高機関として地区党会議を有し、そこにおいて指導機関としての地区委員会が選出される。
(2) (日本共産党の都道府県あるいは地区組織)
イ 右「都道府県」あるいは「地区」組織の構成者は党員であるが、入・離党などによる個々の構成員の変動があつても、「都道府県」あるいは「地区」組織の同一性は損なわれない。
ロ 右「都道府県」あるいは「地区」組織の機関としては、社団法人の総会に相当する最高意思決定機関として「都道府県党会議」あるいは「地区党会議」が存在する。
ハ 「都道府県」あるいは「地区」組織には、右党会議で選出された都道府県あるいは地区委員をもつて構成される「都道府県委員会」あるいは「地区委員会」が設置されるが、「都道府県委員会」あるいは「地区委員会」はさらにその中から「委員長」および「常任委員」を選出し、都道府県党会議あるいは地区党会議の決定を実行し、地方あるいは地区の党活動を指導する機関となるが、常時その総会を開くことは難しいので、つぎの都道府県委員会あるいは地区委員会の総会までの期間の各委員会の職務について、日常の常務の執行権限を右「常任委員会」に委ねたものであり、「委員会」はこれらの機関の決定に従い党務を執行し、対外的には都道府県あるいは地区組織を代表する。
ニ 右都道府県あるいは地区組織の右のような独自性に鑑み、党員が納入する党費のうち一定割合の金員は、当該組織の資金となり、自らこれを管理処分することができる。
(3) (右都道府県あるいは地区組織の名称)
党規約にいわゆる「都道府県」あるいは「地区」組織の実体は右のとおりであり、人格なき社団であることは明らかであるところ、右「都道府県」あるいは「地区」組織を表示するにあたり、実際上「都道府県」あるいは「地区」組織という呼称ではなく前述の指導、執行機関たる委員会と同一の名称すなわち「都道府県」あるいは「地区」委員会という名称が用いられている。たとえば、政治資金規制法六条にもとづく選挙管理委員会に対する届出団対名として本来政党の名称を表示すべきであるのに、北海道では日本共産党北海道地方委員会、札幌、留萌、室蘭、苫小牧、日高、十勝では日本共産党札幌地区委員会などの名称が用いられている。また、政党が本来主催すべき選挙運動、各種集会、演説会などにおいて、〇〇地区委員会という名称が用いられ、いまだかつて〇〇組織、〇〇支部、〇〇地区などの名称が用いられたことはないし、一般人がその記載を信頼する電話番号簿においてすら、他の団体政党と異なり、〇〇委員会という名称が用いられているのである。
そこで、被告は本件各課税処分にあたり、右のような日本共産党の都道府県または地区組織における従来の慣例的、統一的名称によつて、「北海道委員会」あるいは「札幌地区委員会」の名称を用いたのであり、右処分は日本共産党の北海道地方組織あるいは札幌地区組織自体を名宛人としたものである。
ところで、原告地区委員会は、本件訴訟第三回口頭弁論期日において原告地区委員会は人格なき社団であると陳述し、これに対し被告は第六回口頭弁論期日において右主張を認める旨陳述したのであるから、同原告は人格なき社団であるという陳述に反する主張はなしえない。すなわち、同原告が人格なき社団である旨の事実は、入場税課税要件の面からみれば、同原告が入場税の納税主体となりうる資格を有することを意味し、従つて同原告の右陳述は課税要件事実の自白となるからである。なお同原告は第八回口頭弁論期日において右陳述を徹回する旨述べているが、被告はこれに異議がある。
(五) (人格なき社団の入場税納税義務)
(1) 人格なき社団の公法上の権利能力
租税法律関係が公法関係であることは異論の余地がないところ、公法上一般に法人格を認められない社団でも、法秩序のうえで当事者たる地位を認められ、公法上一定の法律関係に立つことがある。またこれを納税義務だけに限つてみても、納税義務者となりうるものの範囲すなわち租税法上の権利能力の範囲は、民法における場合よりも広義であつて、私法上の人格なき社団にも納税義務を認めうる。
(2) 入場税の性格、目的
入場税は、入場税法一条各号に規定する興行などへの「入場」を課税対象とするもので、その狙いはこれら興行場などへの入場には相当の金銭的出捐を要するものであるが、このような消費的支出にたえ得る者には、それ相応の担税力があるとみて妨げないので、入場者に一定の税率による租税を実質的に負担させようとするところにある。つまり、入場税は、納税義務者と担税者とが異なることが予定されているところの租税であり、いわゆる転嫁が予定されている間接税にほかならない。
それゆえ、同法三条の「経営者等」が、営利の目的として当該催物を開催したか否か、現実に利益を得たなどの問題は、もともと入場税の納税義務の成立とは無関係なことがらであり、このことは政治的な意図をもつた催物であつてもそれが入場料金を領収する限り同様である。
(3) 法的安定性
入場税法の実定法上の根拠から考察すると、入場税法三条は納税義務者を興行場などの「経営者」または「主催者」と規定するにとどまるが、その免税興行に関する同法八条一項は、「別表の上欄に掲げる者」が同項一号ないし四号の各要件を充たす催物を行なうときは、当該催物が行なわれる場所への入場については、その申請により入場税を免除する旨を規定している。従つて、同条項にいう「別表上欄に掲げる者」が主催する場合であつても、同項各号の要件のいずれか一つでも欠いた催物のときは、入場税は免除されず、当該催物の経営者らはこれを納付しなければならないことは反対解釈として明らかなところである。
イ ところで、右「別表上欄に掲げる者」を検討すると、「四、社会教育法一〇条の社会教育団体」については社会教育法一〇条をもつて、この法律で「社会教育関係団体」とは、法人であると否とを問わず、公の支配に属しない団体で、社会教育に関する事業を行なうことを主たる目的とするものをいう、と規定し、人格なき社団をも含む旨明言している。
ロ また、右「別表上欄に掲げる者」のうち「八、更生緊急保護法による更生保護事業を経営する者」についてみると、更生緊急保護法五条は、更生保護事業の経営の認可は「経営の組織および経理の方針が公益法人またはこれに準ずるもの」に与えられると規定し、人格なき社団もしくは財団にも事業経営の認可を与える道を開いている。そして北海道内に限つてみても、函館和光保護会ほか五つの団体が人格なき更生保護会として経営の認可を受け活動している。
ハ その他、「別表上欄に掲げる者」のうち「一、児童、生徒、学生又は卒業の団体」、あるいは「三、学校の後援団体」の多くは人格なき社団であることは公知の事実である。
以上の事実だけからみても、入場税法は明らかに人格なき社団をも主催者の範ちゆうに入れており、同法三条の解釈としても人格なき社団に入場税納税義務を認めたことは文理上正当であり、十分な実定法上の根拠が存在するものである。それゆえ本件課税はいささかも租税法律主義にもとるものではない。
さらに従来の課税実績の面からみても、入場税が地方税とされていた昭和二九年以前から人格なき社団である青年団、婦人会などの催物について各地方自治体は入場税を徴収してきたのであつて、入場税が昭和二五年五月一八日以降国税に移管されてからも、主催者が人格なき社団であると否とにかかわらず、入場税の納付義務が存在することは自明の理として疑われなかつたところである。そして、原告に対する本件課税処分も従前からの解釈に従つてなしたまでで、これまで課税対象としていなかつたものに対し、税法の行政解釈を変更して新規に課税処分を行なつたものではない。それゆえ、原告としても当然入場税を課税されることを予測すべきところであつて、本件課税処分は行政実例の面からみてもいささかも法的安定性を損なつていない。
(4) 人格なき社団の私法的把握
社団はそれが法人格を有すると否とにかかわりなく、構成員個々の人格とは別個の独立した社会的実在であり、このような社団の対外的法律関係は、構成員個々の個人債権なり、個人債務なりに解体することはできない性質のものである。それゆえ、人格なき社団であるがゆえに債務を負担しないという原告の主張は、私的側面からみても全く理由のないものである。
(三) 被告の主張に対する原告らの答弁
(1) 被告の答弁および主張の(二)の(1)について
原告地区委員会が映画「日本の夜明け」の上映の主催者であるという被告の主張は否認し、その余は不知。
(2) 同(2)について原告道委員会が整理券と名づけられた一枚一〇〇円の入場券を販売して入場料金を領収したことおよび右入場券と引換えに六一一名の者を入場させたことは否認し、その余は認める。ただし、原告委員会が一枚一〇〇円の整理券を発行し、原則として、この整理券と引換えに参加者多数を入場させたことはある。
(3) 被告の答弁および主張(三)の3について
被告が原告らに対し、主催申告、納税申告について再三慫慂したが、関係者はこれに応じなかつたことは認めるがその余は争う。
第三証拠関係
一、原告ら
1 甲第一号証、第二ないし四号証の各一、二、第五号証の一ないし四
2 証人伊藤三郎、同市山吉次
3 乙第一、二号証の各三、四、第六、七号証の各一、二、第一八、一九、二一号証の成立は不知、同第三号証の成立は否認、その余の乙号各証の成立は認める。
二、被告
1 乙第一、二号証の各一ないし四、第三号証の一、二、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし五、第六ないし八号証の各一、二、第九号証の一ないし四、第一〇ないし一三号証、第一四号証の一ないし九、第一五、一六号証の各一、二、第一七号証の一ないし三、第一八ないし二二号証
2 証人笹谷幸三、同鈴木馨、同瀬能光雄、同石川澄夫、同前鼻久喜
3 甲第一号証の成立は否認、その余の甲号各証の成立は認める。
理由
第一、本案前の申立について
一、原告らの当時者能力
1 日本共産党の全国組織
成立に争いのない乙第三号証の一、二によれば日本共産党規約(昭和四一年一一月二〇日日本共産党中央委員会出版部発行。以下日本共産党規約あるいは党規約というのは右を指す)には、日本共産党の組織として概要つぎのとおり規定している。
すなわち日本共産党は組織的には各党員により構成されている。つまり三名の党員が構成員となつて日本共産党の基礎組織である細胞が組織され、数細胞の集合体が地区組織となり、数地区組織の集合体が都道府県組織となり、都道府県組織の集合体が全国組織としての日本共産党となる。そして、各級組織の最高意思決定機関は党会議(全国組織の場合は党大会)であり、執行機関は委員会(全国組織の場合は中央委員会)である。
2 日本共産党の都道府県および地区組織
右のとおり、地区組織は数細胞組織の集合体、都道府県組織は数地区組織の集合体であり、それ自体一個の完結した人的結合体であり、最高機関としてそれぞれ都道府県あるいは地区党会議を有し、指導機関としてそれぞれ委員会を有する。
(一) 都道府県あるいは地区党会議
都道府県あるいは地区党会議は、都道府県あるいは地区委員、同候補および代議員によつて構成され、定期および臨時に招集され、右各組織の最高意思決定機関としての決定を行なうほか各委員会の委員を選出する。
(二) 都道府県あるいは地区委員会
都道府県あるいは地区委員会は、都道府県あるいは地区党会議において選出された都道府県あるいは地区委員によつて構成され、中央委員会が対外的に全国組織である日本共産党を代表すると同様に、対外的に都道府県あるいは地区組織を代表する権限を有するとともに、党の中央機関あるいは上級機関の決定をその地方あるいは地区に具体化し、都道府県あるいは地区党会議の決定を実行し、都道府県あるいは地区の党活動を指導する職責を有する。ところで、都道府県あるいは地区委員会が委員会総会を開催し、その決定に従いすべての日常活動を指導することは困難なので、都道府県あるいは地区委員会は、委員長と常任委員を選出し、この常任委員会が右委員会総会からつぎの総会までの間右委員会の職務を行なう。
(三) 財政
党の資金は、定期的に党員によつて納入される党費と党の事業収入および党への寄付などによつて賄われるが党費は各級指導機関へ配分され、その率は中央委員会が決定する。
(四) 「北海道地方」あるいは「札幌地区」組織
以上を日本共産党の下級組織たる北海道地方および札幌地区についてみると、右各組織は、道内に居住の党員により構成され、上級機関の方針を当該地方あるいは地区に具体化するなどの独自の目的を有し、意思決定機関および執行機関を有し、党費などによる財政的基盤も存する継続的な人的結合体であり、現に、つぎにのべるように、右目的に従つて演説会など各種政治活動あるいは取引行為などを行なつているものと認められるから、全国組織としての日本共産党の下級組織ではあるがなお独立の人格なき社団であるということを妨げないと解すべきである。
3 日本共産党北海道「地方」あるいは札幌「地区」の名称
党規約によると、日本共産党の組織は、工場、鉱山などの経営および農村、居住、学校を基礎として組織される。これを同規約は「基礎組織」と呼んでいる。そして、「基礎組織」の数個の集合体を「地区組織」と呼び、さらに「地区組織」の数個の集合体を「都道府県組織」と呼んでいるが、「都道府県」を「地方」とも称している。従つて、規約上は、北海道における 「地方」あるいは「地区」組織の名称は、日本共産党北海道地方あるいは日本共産党札幌地区のごときものとなると解し得るところ、原告は右各名称が唯一無二であるべきであると主張しているのである。しかしながら、右規約に用いられた用語は、日本共産党の内部関係における組織定立の際に使用されたものにすぎず、右規約において、対外的に用いる名称としては定めていないことはその規定の体裁に照らし明らかであるし、また一般的にも或組織が対外的にいかなる名称を用いているかについては、その組織規約などの内部的な定めのみならず、他の客観的な事情をも総合して判定すべきであるから、原告の右主張にはにわかに左袒し難いところである。
そこで党規約にいわゆる日本共産党北海道「地方」あるいは札幌「地区」組織はいかなる名称をもつて表示されてきたかについて検討してみると、本件の全証拠を検討しても日本共産党北海道地方あるいは札幌地区など下級組織については、日本共産党内部においても対外的に用いるべき特定の名称が定められていると認められる資料は何ら存在せず証人伊藤三郎、同市山吉次の各証言によると、日本共産党員でかつそれぞれ道地方あるいは札幌地区の常任委員である右両証人ですら、道地方あるいは札幌地区組織が対外的に活動する場合の組織内で正式に定められた、或は特定の名称は存在せず北海道地方あるいは札幌地区組織が対外的に第三者と取引行為をなすような場合は、その組織の表示は、執行機関たる北海道委員会あるいは札幌地区委員会名をもつてしてきたし、今後も同様の表示方法によるほかないとされていることが認められる。これを具体的に原告らの組織の表示方法についてみると、まず政治資金規制法六条による届出は、同法の趣旨からして本来政党自らがなすべきものと解されるところ、証人笹谷幸三の証言と、成立に争いのない乙第一、二号証の各一、二、四号証の一ないし三、五号証の一ないし五によると、北海道地方による日本共産党関係では、北海道委員会あるいは札幌、留萌、室蘭、など地区委員会名で右届出がなされていることが認められる。また、党規約の下級組織についての定めの趣旨に照らすと、選挙運動、各種集会、演説会などの政治活動は、日本共産党の全国組織あるいは下級組織自体が行なうべきものと解されるところ、北海道地方においては、成立に争いのない乙第九号証の一ないし三、二〇、二二号証によれば、集会あるいは演説会などは、北海道委員会あるいは札幌地区委員会名で主催されているものが存することが認められ、さらに、成立に争いのない乙第八号証の一、二、第一七号証の一ないし三によると、札幌市の電話番号簿においても、昭和四二年項は、日本共産党以外の政党は、札幌連合支部あるいは北海道支部など明らかに政党自体を表示するものと解される名称を用いているのに対し、日本共産党関係では北海道委員会あるいは札幌地区委員会名で表示されていることが認められる。さらに、訴訟行為における表示名義については、成立に争いのない乙第一四号証の一ないし九によると、本件(昭和四一年(行ウ)第一号)と当事者、代表者、原告訴訟代理人が同じ入場税課税処分取消請求事件(当庁昭和四〇年(行ウ)第一〇号、同四一年(行ウ)第六号)においては、本件と同様札幌地区委員会名により訴訟手続が追行されていることが明らかであり、また本件において、成立に争いのない乙第一五号証、一六号証の各一、二によれば、被告の入場税賦課決定に対し北海道委員会あるいは札幌地区委員会名義で法定期間内に異議申立および審査請求がなされていることが認められる。
右に認定した各事実によると、日本共産党北海道地方あるいは札幌地区は、政治活動あるいは取引行為において、自己を表示するにあたつては、それぞれ日本共産党北海道委員会あるいは札幌地区委員会なる名称を慣例的に用いていたものであり、これに対し一般第三者においても、右の各名称は北海道地方あるいは札幌地区組織を表示するものと理解していたものと推認するのが相当である。これに対し、原告らは右の点について政治資金規制法による届出を北海道委員会あるいは札幌地区委員会名でしたのは、所轄選挙管理委員会の行政指導に従つたことによるものであり、ほかに右各名称を用いているのは、執行機関として行為していることによるものであると主張しているが、前者については右の主張のごとき行政指導がなされたと認めるに足りる証拠がないから採用しがたく、また後者は、その行為の内容と、表示の態様に照らすと権利義務の帰属主体である人格なき社団の表示と理解され、単なる執行機関の表示とは認め難い。そして、原告地区委員会が当初人格なき社団に入場税を賦課することはできない旨主張して本訴を提起し、第三回口頭弁論期日においては自ら人格なき社団である旨を主張していたが、第八回口頭弁論期日において右主張を撤回し、その機関であるにすぎない旨主張するに至つたことは本件記録上明らかであり、原告地区委員会における右弁論の経過と、前記認定のとおり原告地区委員会と同道委員会が組織上、上級と下級の関係にあるにしてもその実態において異るところのないことを考慮し、更に前記課税処分に対する異議および審査手続の一環として本訴が提起されたことに照らすと本件においても日本共産党北海道地方組織あるいは札幌地区が前述したような従前の慣行的用例に従いそれぞれ日本共産党北海道委員会あるいは札幌地区委員会名義で訴を提起したものであることは明白である。そうすると結局本件の原告らは、党規約の表現をそのまま対外活動において自己を表示する方法として用いるとするならば「日本共産党北海道地方」あるいは「日本共産党札幌地区」とでも表示されるべき、日本共産党の下級組織そのものであり、右は前述のとおりいずれも人格なき社団であると解せられるが、代表者の定めが存するので、原告らはいずれも民事訴訟法四六条により当事者能力を有するものというべきである。
よつて、原告らの本件訴は不適法であるから却下を求めるとの被告の申立は理由がない。
二、当事者の特定性
原告らの主張するところが、原告らが人格なき社団と認められたときを仮定したうえでの主張であつて、異つた二個の主体を前提としたものでないことはその主張自体から明らかであり、原告らが訴の当初から人格なき社団としての実体を備えた道地方組織あるいは地区組織と認められることは既に認定したとおりであるから、当事者の特定性ないしは明確性に欠けるところはないというべきで、この点に関する被告の主張も採用しない。
第二、本案について
一、(原告らの社団性)
前述のとおり、日本共産党北海道委員会なる名称で表示される原告は、党規約のいわゆる同党北海道地方組織であり、同党札幌地区委員会なる名称で表示される原告は、党規約の同党札幌地区組織であるが両組織が人格なき社団であることは、第一において認定したとおりである。
なお本件記録に徴すると、原告地区委員会は、本件口頭弁論期日において、同原告は人格なき社団である、と述べ、被告がこれを認める旨陳述したことは明らかである。
右のとおり同原告がみずから社団であると陳述したことは、入場税法三条の規定によれば、同原告が納税義務者となる資格を有することを自認したことになると解されるが、同原告の右陳述は社団と認定するための要件事実についてなされたものではなく、法律的評価についてなされたにすぎないからそれは裁判上の自白の対象とはならないと解すべきである。従つて、被告が右陳述を援用したのちでも同原告は右陳述を有効に撤回することができるというべく、同原告が本件第八回口頭弁論期日でなした右陳述の撤回は有効である。
二、(原告らの映画の上映の事実)
1 原告地区委員会
証人瀬能光雄、同石川澄夫の各証言、成立に争いのない乙第四、一一ないし一三号証、右瀬能、石川の各証言によりそれぞれ成立の認められる乙第一八、一九号証によると、同原告は、昭和三八年七月一〇日および一一日の両日、前後三回にわたり、札幌市北一条西一丁目所在札幌市民会館において集会を開催し、同所で映画「日本の夜明け」を上映し、右映画会場に、二、七三〇人を下回らない数の者を入場させ、右入場者から各一五〇円の金員を領収したことが認められるが、右の主催者について、甲第一号証として提出された日本の夜明け特別鑑賞券には「主催/日本の夜明けを観る会」の記載が存在するが前記石川の証言および乙第一九号証によれば、右「日本の夜明けを観る会」なる団体は、実際には存在せず、右鑑賞券上の右表示は、実際の主催者たる札幌地区委員会なる名称を表示することを避けるためになされたものと認められるから、結局右鑑賞券の存在は前記認定の妨げとならず、そのほか右認定に反する証拠はない。そこで、同原告が右入場者から領収した金員の性格についてみると、前記乙第一一、一二号証によると、昭和三八年頃日本全国の各地において日本共産党の各委員会により、政治宣伝の目的のため映画「日本の夜明け」が上映されており、その際映画の観覧希望者に対し、観覧切符を前売りしていた事実も存したと認められ、右認定事実と、前記乙第一八、一九号証および甲第一号証として提出された前記鑑賞券の存在を総合すると、本件においても同原告は事前に特別鑑賞券と称する切符を代金一枚一五〇円で販売し、多数人に右鑑賞券と引換えに本件映画会場へ入場を許していたと認めるのが相当で、そうすると右各認定事実からして、本件において同原告が領収した金員は、映画会場への入場に対する対価として領収されたものと解するのが相当である。ところで前記石川の証言および乙第一九号証によると、同原告委員長阿部勘吾が、昭和三八年一〇月二二日、同原告が入場者から領収した右金員は、同原告らの映画製作のための資金とするための所謂カンパである旨主張していたことが認められるが、右は、前記乙第一一、一二、一八号証に照らし措信し難く、そのほか右認定に反する証拠はないし、右推認を妨げる事情も存在しない。
2 原告北海道委員会
同原告が昭和三九年七月二四日いわゆる日本共産党札幌地区委員会と共同して、前記札幌市民会館において「日本共産党創立四二周年記念」と称して集会を開催し、映画「戦斗的キユーバ」および「アカハタニユース」を上映したことは当事者間に争いがなく、証人前鼻久喜の証言、成立に争いのない乙第二〇、二二号証、右証言により成立の認められる乙第二一号証によると、右映画上映に先立ち、同原告は整理券と名づけられたものを代金一枚一〇〇円で販売し、右整理券を所持する者にはそれと引き換えに、同券を所持しない者には右会場入口において少なくとも一〇〇円を支払うことと引換えに右会場へ入場を許したこと、さらに右入場者数は少なくとも六一一名を下回らないことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。右に認定した各事実からすると、同原告が領収した右入場者一人について一〇〇円の金員は、右会場への入場に対する対価であると解するのが相当である。
なお、前記各証拠ならびに甲第三号証の一、二を総合すると右映画上映は、原告らの事業の一環として共同して行なわれたものと認められ、この認定に反する証拠はない。従つて、同原告は国税通則法九条の定めるところにより、右領収した料金の全部につき所定の入場税の納付義務を負うべきである。
三、(課税処分の存在)
被告が札幌地区委員会に対し右二の1記載の映画上映の主催につき、昭和三八年一二月一七日付で入場税課税決定をなし、これに対し札幌地区委員会が適法に異議申立および審査請求をなしたこと、また被告が北海道委員会に対し右二の2の映画上映の主催につき昭和三九年一二月一五日付で入場税賦課および無申告加算税賦課決定をなし、これに対し北海道委員会が適法に異議申立および審査請求をなしたことはそれぞれ当事者間に争いがない。ところで、前述したように、日本共産党の下部組織である北海道地方組織あるいは札幌地区組織を表示するものとしてそれぞれ日本共産党北海道委員会あるいは札幌地区委員会なる呼称が使用されており、右用法が一般に定着していたと認められ、および証人石川、瀬能の証言を総合すると、本件各課税処分は、それぞれ、本件原告である日本共産党北海道委員会なる呼称の「北海道地方組織」あるいは札幌地区委員会なる呼称の「札幌地区組織」に対しなされたものと認めるのが相当である。
四、(課税処分の適法性)
1 入場税法が人格なき社団に入場税納税義務を負担させるものとしているかについて検討するに、入場税法には、所得税法四条あるいは法人税法二条の規定のように、人格なき社団も課税上は法人とみなす趣旨の規定が存在せず、従つて入場税法三条に規定されている興行場の経営者または主催者に人格なき社団が含まれるかは同条の規定のみからは必ずしも明確とはいい難いが、同条によれば入場税の納税義務者は、興行場の経営者または主催者であるところ、入場税は映画などの興行場への入場者は一定の担税力を有するところに着目してもうけられた租税で、税負担はその納税義務者から入場者へ転嫁されることが予定された間接税であるから、人格なき社団といつてもその名において映画などの興行場を経営または主催するものに対し、入場税納税義務を負担させることは理論としても許されないものではないし、入場税法八条一項によると、別表の上欄に掲げる者が主催する催物が一号から四号に掲げる条件に該当する場合において第三項の規定による承認を受けたときは、当該催物が行なわれる場所への入場については入場税を免除する旨規定されていて、別表の上欄の団体のなかには、たとえば一号に児童、学生または卒業生の団体あるいは二号に、学校の後援団体が掲げられ、これらの団体の多くは人格なき社団であることは顕著な事実であり、また四号に、社会教育法一〇条の社会教育関係団体が掲げられ、右団体は社会教育法一〇条によると、法人であると否とを問わず公の支配に属しない団体で、社会教育に関する事業を行なうことを主たる目的とするものをいう、とされているところなどからしても、右にいわゆる免税をうける団体のなかに人格なき社団が含まれることは明らかであり、この反面解釈として人格なき社団といつても入場税法八条一項に該当しない場合は免税をうけることができず、同法三条の原則的規定により入場税納付義務を負うことになると解せられるのである。
右によると、入場税法は人格なき社団に納税義務を負担させうることを当然の前提としているものと解されるから、被告が本件課税処分において原告らに入場税を課したことは、憲法三〇条、八四条に反するものではない。
2 原告らは、さらに、本件映画上映は、原告らの政治活動の一環としてなされたものであり、観覧者は原告らの政治活動に参加したにすぎず、従つて本件各映画上映は、入場税法二条にいわゆる「催物」に該当せず、このような政治活動への参加に入場税を課することは、入場税法本来の目的を逸脱し違法であると主張するが、入場税法は、前述のとおり映画などの催物が行なわれる場所への入場者が有する担税力に着眼し、入場者の支払う入場料金について一定割合で入場税を課し、これを領収することを目的としているのであつて、同税法二条にも「催物」とは、映画、演劇、演芸、音楽、スポーツ、見せ物、競馬、競輪その他政令で定めるこれらに類するもので多数人に見せ又は聞かせるものをいう、と規定しているにすぎず、興行場の経営者または主催者あるいは入場者の主観的意図により区別をもうけるべきものとは解しえないところである。従つて、原告の本件映画の上映が政治活動としてなされたとしても、右は入場税法二条ににいう催物に該当することは明らかであり、この点についての原告らの主張も失当で採用しがたい。
3 そうすると原告地区委員会は、入場税法二条にいわゆる「催物」を主催し、その会場に二、七三〇人を下回らない数の者を入場させ、その対価としてその者らから合計四〇、九五〇円の金員を領収したものというべきであり、従つて入場税法三条、四条により同原告は、右の映画の上映をしたことにより、三七、二二〇円を下回らない額の入場税の納税義務を負担すべきものと解される。
4 また、原告道委員会は、地区委員会と共同して、右にいわゆる「催物」を主催し、その会場に、少なくとも六一一名の者を入場させ、その対価として入場者らから合計六一、一〇〇円を下回らない額の金員を領収したものというべきであり、入場税法三条、四条、国税通則法八条、九条により五、五五〇円を下回らない額の入場税を負担すべきであつたから、入場税法一〇条の規定に従い、所定事項を記載した申告書を所轄税務署長に提出して入場税申告をなすべき義務を有していたところ、当事者間に争いのない事実によれば、原告道委員会が法定期間内に右申告を行なわなかつたことが明らかであるから、同原告はさらに国税通則法六六条により、申告がなされなかつた入場税額五、五五〇円について一〇〇分の一〇の割合の額の無申告加算税の納税義務を負うものというべきである。
五、右のとおり、被告の原告らに対する入場税課税処分はいずれも適法であり、従つて原告らの本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官鈴木康之、裁判官大出晃之は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 川上正俊)